2013/07/31

ソシャゲの絵と写実主義の話。

最近ソーシャルゲームがとても活発で、ソシャゲ用の絵の仕事が大量に存在するらしいです。

主にカードゲームのキャライラストだと思うのですが、現実世界のカードだけだったころに比べて、乱立するソシャゲと増え続けるソシャゲ用カード需要のおかげで、ものすごい量の仕事が発生し、世に存在する絵描き志望の内、かなりのリソースがソシャゲ用キャラ絵に向けられているようです。

この状況が、19世紀中盤の印象派以前の状態にすごく似ているのではないかと思います。



印象派以前、ヨーロッパでは肖像画、風景画の需要しかなく、ほとんど全ての職業画家はこれらの絵を描き、ひたすら細密さと現実感、多少の光の表現を追求していました。キリスト教の影響が大きいらしいのですが、この写実主義がかなり長く続き、支配的だったようです。

現在のソシャゲと比べてみると、目標が非常に明確である。遊びの幅が少ない。研究しつくされていて、今後の発展性があまりない。市場に占める割合が支配的である。などの点で良く似ていると思います。(発展性については、アニメーションや3DCGなどに派生する可能性は残されている)



さて、この写実主義がその後どうなったかというと、カメラの発明により一気に肖像画の需要が減り、普通以下の画家は仕事にあぶれるようになってしまいます。そして、肖像画から開放され仕事もなくなった画家たちは、印象派、ジャポニズムなどの新しい創作を模索していきます。

この時代からアール・ヌーヴォーの終わりくらいまでが僕は最も好きです。
特にクリムトにはお世話になりました。

それまでにあった非常に明確な枠を、いかに歪めるか、いかに取り払うかを模索し、かつてあった常識(写実主義)を共有した上でいかに遊ぶか。という非常にユーモアが問われた時代だったと思います。

さらに時代が進むと、写実主義という常識を完全に失ってしまった絵画の世界は、ただ前提や常識もなく奇抜なことを行い、言葉でそれを補うというあまり面白くないものになっていきます。

イラストレーションが進化し続けたことを思うと、実用品から離れすぎたことが、今日の低迷を招いたのではないかと思いますが、ちょっと話がずれるので割愛します。



さて、では今後ソーシャルゲームによって、カードゲーム用キャラ絵のスキルをつけた大量の絵描きはどうなるのでしょうか。

色々な人が言っていますが、おそらく今の状況が20年も続くことはないでしょう。スマートフォンも日々進化していますし、いつまでも「スマホのゲーム=カードゲーム」という状況が続くとは考えにくいです。全てのカードゲームがなくなるわけではないので、一握りのトップ絵描きの人たちはなんの問題もなさそうですが、いずれソシャゲカードゲーム神話が崩壊する際には、大量の普通以下のキャラ絵描きが職にあぶれることになるでしょう。

しかし、19世紀の写実主義絵画と最も違う点は、今日の絵が主に他の製品を成り立たせるための実用品であるということです。(例:ゲーム、漫画、イラストレーションなど)
よって、19世紀末に起きたような「それまで支配的だった絵を前提にしたさらなる発展」は起きそうにありません。

むしろ注目すべきは、「志望人口比率の推移」でしょう。Pixivの影響も大きいと思いますが、2010年代に入る前後から、新しいものや、ニッチを目指しつつもとても実力のある若手、というのが一気に減ったように感じます。

現状の絵描き志望者のとても多くの部分がPixiv、ニコニコ動画、大量にあるソーシャルゲームの仕事。などに向けられていて、それ以外を目指す若手の絵のレベルがどんどん下がっているのではないでしょうか。

実力のある若手がどのように発生するかというと、単純に分母の大きさです。
スポーツなどが分かりやすいのですが、あるスポーツでその国が強いかどうかは、競技人口に比例します。才能があり努力して実力を付ける人というのは、運で作り上げられます。そのため、単純にそれを目指している人が多ければ多いほど、実力のある若手が台頭し、またそのジャンル全体の実力、トップの実力も底上げされていくことになります。

いつかソシャゲ用カードゲームキャラ絵の仕事が一気に減った暁には、投入されていた大量の絵描き志望者のリソースが他に向けられることになるでしょう。下がる一方の他ジャンルの絵のレベルが一気に上がり、有望な若手が次々に登場する時代が到来するでしょう。たぶん。



僕は書籍装画系のイラストレーターで生計を立てることを目指しているので、現状は大歓迎です。レベルは大いに下がっていただきたい。おかげさまで相対的にぼくの評価が上がるはずです。

そして、いずれ来るであろう「有望な若手がどんどん出てくる時代」というのが楽しみでもあり、恐ろしくもあります。それまでになんとか自分の存在感を確保しておかねばなりません。

というわけでお仕事募集中です。よろしくです。